クメール・ルージュ特別法廷の裁判関連文書センター 日本政府が約25万米ドルの援助を承認

カンボジア通信No.21

2019年11月11日版

駐カンボジア日本国大使館の11月8日付け記者発表によれば、日本政府は、カンボジアのクメール・ルージュ特別法廷の裁判関連文書センター(Legal Documentation Center, LDC)が行う記憶遺産の活動に対し、カンボジア政府が日本政府による援助の見返り資金から251,970米ドルの支出を行うことを承認した。

 翌9日付けのクメールタイムズ紙は、この記者発表のほぼ全文を紹介しており、それによれば、この資金の使途の内容は、次の通り。

(1)この資金は、特別法廷の活動をカンボジア全土に3年間にわたって広く伝えるための「移動広報班」の設置とその活動に必要な機材(専用車両、ビデオ録画機、映写機、携帯用スクリーン、拡声器、マイク、ラップトップ)や、(2)LDCの活動を充実させるために、オランダに在る国際刑事裁判所の図書館やドイツの文書センターとの協力の拡大や経験の交換のための相互訪問などに充てられる。

(3)また、協力大学や研究機関との緊密な協力の下で、虐殺やポル・ポト時代あるいは特別法廷の実績に関する研究や論文の執筆を行うカンボジアの大学生に対する2年にわたる奨学金付与にも活用される。

(4)仮想裁判の改善と発展

 

 クメール・ルージュ特別法廷は、1975年から79年の間にカンボジアを支配したポル・ポト派政権の最高幹部を、虐殺や人道に対する罪などで裁く裁判で、国連との共催のもと、カンボジアの国内法廷として設置された。

2006年に活動を開始し、2009年に、ツールスレン政治犯収容所のカン・ケック・イウ元所長を被告とする第1ケースの本格審理が始まった。これまでにカン・ケック・イウ元所長の無期禁固が確定。第2ケースでは、ポル・ポト派のナンバー2といわれたヌオン・チア元国民議会議長、イエン・サリ元外交担当副首相、イエン・チリト元社会事業相、キュー・サンファン元国家幹部会議長を被告として審議が進んでいたが、右4被告のうち、イエン・チリト元社会事業相は認知症と診断され裁判を停止後に死亡、イエン・サリは、人道に対する罪やジェノサイド罪等で訴えられていたが、公判中に死亡、ヌオン・チアは、ベトナム人住民に対するジェノサイド罪を宣告されるとともに人道に対する罪で終身禁固の判決後死亡、キュー・サンパンは、人道に対する罪で終身刑及びベトナム人住民に対するジェノサイド罪の有罪判決を受けた。

 このように、裁判が時間との闘いとなる一方で、この裁判の内容や意義を次世代に伝える啓蒙活動の必要性も高まっている。特別法廷やポル・ポト時代に寄せる若い世代の関心は決して高いとはいえず、記憶や経験が忘れ去られてしまう恐れがある。そこで、裁判の結審事案の文書や映像,関連文献を保管し、多くの人々がこれらに接することができるようにするLDCが2017年6月、日本政府の支援で開所した。

今回の支援は、このLDCの活動に係る広報や記録、研究、啓発活動を支えることが目的である。

 

 [日本カンボジア協会のご入会 ]
  こちらよりご覧ください

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