米トランプ大統領「米国はカンボジアの政体変更を求めている訳ではない」 フン・セン首相に書簡

カンボジア通信No.20

2019年11月27日版

 11月24日付のプノンペンポスト紙及びクメールタイムズ紙によると、米国のトランプ大統領は、フン・セン首相に対し、米国はカンボジアの主権を尊重する旨の約束を表明するとともに、2020年に米国で開催する「米ASEAN首脳会議」にフン・セン首相を招待する、と記した書簡を送った。

 両紙は、トランプ大統領が今月初めに同首相に宛てた2通の書簡で、上記の次第を表明し、パトリック・マーフィー駐カンボジア米国大使が、21日のフン・セン首相との会談で、その内容を明らかにしたと報じている。他方、フン・セン首相は、自身のフェイスブックで、トランプ大統領が米国はカンボジアの様々な分野における発展のために支援を継続する一方で、内政には干渉しないとの意向を伝えた旨、明らかにした。そして、トランプ大統領の言葉として、そのうちの一つの書簡から、次の件を引用している。

「米国は、カンボジアを支持する旨約束する。特に、カンボジアの主権を尊重し、政体変更を支持しない。」

(当協会注:「政体変更」の英文は、regime changeであり、government changeではない。即ち、米国は、現カンボジア憲法の下における政体(政府の形態)の変更を支持しない旨表明したものであって、現(フン・セン)政権の変更を支持しない旨表明したものではない。)

「米国は、カンボジアが強力、かつ、透明性のある財政運営を確保すること及びマネーローンダリング対策をとることを支援する。」

「米国は、また、カンボジアに対し、友好と協力の信頼性を築くため技術支援を提供する。」

 また、同紙が見た書簡においては、トランプ大統領は、両国間の緊張関係の存在を認め、相互尊重の基盤に立って、関係の修復を図ることを次の通り約束している。

「近年の米国の対カンボジア関係は困難に直面したが、仲違いするのは両国国民にとって利益にならない。」

「このため、私は、この際、米国は、カンボジア国民の主権に基づく意思を尊重し、政体変更(regime change)を求めるものではないということを強調したい。私の政権(administration)は、貴首相の政府(government)との間で相互尊重に基づく関係を求めている。」

「米国は、引き続き、民主主義、個人の自由及び法の支配を堅持することが、すべての国において、平和、安定及び繁栄への最善の道である旨の中核的信念を表明し続ける。」

 他方、トランプ大統領は、同時に、カンボジア政府に対し、民主主義の強化にもっと取り組むよう、次の通り促した。

「両国の将来の関係にとって、貴首相が、カンボジアを民主的統治の途に戻すようにすることが重要である。」

「この最初の一歩として、私は、貴政府が決定した措置のうち、米国がカンボジアの長期的な主権、安定及び経済発展に深刻な危険を及ぼすものと強く信じる幾つかのものについて、再検討することを希望する。」

 同大統領は、また、米国は、カンボジアが内戦を克服する当初の頃からカンボジアを支援し、また、投資をしてきたのみならず、カンボジア政府とともに、軍事・治安面における支援を含め、建設的に協働してきたことを指摘した上で、平和で繁栄するカンボジアは、善の勢力となり得るものと信じている旨付言した。

 この書簡を受けてフン・セン首相は、来年の米ASEANサミットに出席する意向を自分のフェースブックで表明するとともに、米国が継続している対カンボジア支援は、両国間の強固な紐帯及び協力を反映するものである旨述べた上、更に、両国間の関係の強化を目指すカンボジアの姿勢を再確認した。

(当協会注:フン・セン首相は、1998年に単独首相となって以降、これまで、20年以上にわたって米国政府より米国公式訪問の招待を受けたことがなく、内心では、今回の招待を非常に喜んでいるものと想像される。この訪問の際、米・カンボジア両国首脳間の公式行事が開催されるのか、また、これを契機に両国間の諸懸案の解決に進展の弾みが突くのか(これまで、カンボジア人民党政権に対し冷たい対応をとってきたのは、米共和党関係者である。)、更に、それがカンボジアの反フン・セン勢力の将来にどのような影響を及ぼし得るのか等、注目される。)

 パイ・シパン政府報道官は、同大統領書簡を、両国間の関係修復を図る歴史的な一里塚である旨評価し、次の諸点を指摘した。

-過去60年間において初めて米国大統領がこのような書簡をカンボジアに認めた。

-これは、両国関係における新しい章を切り開くものであり、カンボジア国民が選挙による権利の行使を通じて示した主権的意思を米国が認めた歴史的里程標である。

-これは、トランプ政権がカンボジアの内政に干渉しない旨約束したことを示すものに他ならない。

 他方、同報道官は、同大統領が書簡で指摘した懸念については、一笑に付し、カンボジアは、いかなる国の政治的道具となることはなく、同大統領のメッセージは、単なる助言である旨述べるとともに、カンボジアは、主権を強化しており、中国とも、また、米国とも、更に他の諸国とも協力して行く旨述べた。

 この書簡について、カンボジア王立アカデミーのソック・トイ学長は、ポスト紙に対し、その内容は、両首脳間の温かい関係を反映したものであるのみならず、米国が2018年の総選挙の結果を受け入れたことを示すものであるとともに、米国には政体変更を支持する理由がなく、カンボジアの主権を尊重することをトランプ大統領が明確に示したものであり、これが、両国の歩み寄りをもたらす上で、最も重要であった点である旨述べた。また、フン・セン首相の強気の外交姿勢が、トランプ大統領の関心を招いたのかもしれないとも語った。

 

 [日本カンボジア協会のご入会 ]
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