カンボジア南部、ケップで建設中のホテル完全崩壊 36人が死亡
カンボジア政府、危機感で全力対応
カンボジア通信 No.20/2
2020年1月13日版
カンボジア南部のケップで1月3日夕方、建設中の7階建てのホテルが完全崩壊した。地元紙(クメールタイムズ紙及びプノンペンポスト紙)の報道によると、36人が死亡、23人が負傷する惨事となった。事態を重視したフン・セン首相以下が直ちに現場に駆け付け、政府挙げての救出作業が行われ、崩壊した建物の瓦礫の山に埋まった生存者23名の救出と遺体の回収に3日間の徹夜作業を要した。また、被害者の支援及び事故原因の特定と対策等についても特別な措置が取られ、昨年6月22日にシハヌークビルで発生し、死者28名、負傷者26名を出した7階建てビル崩壊事故に続き、これを上回る事故の発生に対する政府関係者の危機感が感じられた。また、昨年12月にも、シアムリアップで建設中の寺院が倒壊し、死亡者3名、負傷者13名が出ている。
地元紙によると、建物の建設は2019年8月20日に始まった。崩壊後の写真をみると、すべての階が崩れ落ち、現場は瓦礫の山となっていた。フン・セン首相は事故発生2時間後にフェースブックに現場に駆け付け救助作業の指揮を執る旨発表。ヘリコプターで現地へ急行し、病院で負傷者を見舞った後、現場で救出作業を指揮し、瓦礫の中から救出された人たちに声をかけたり励ましたりしたという。救助作業には、救助員100名以上、救助用機械12機が動員され、ソー・ケン副首相兼内相やクン・キム国家災害対策委員会第一副委員長等もその調整に当たった。
被害が大きくなった理由の一つとしては、建設現場で約40名の作業員が家族と共に生活していたことがあり、これは、昨年6月の事故後禁止されており、州当局関係者がこれに警告を発していたにもかかわらず行われていた。被害者の大半は、建設作業員とその家族。死亡者36名のうち、女性14名、子供6名で、そのほとんどは作業員の家族である。また、建設請負業者も死亡。建物崩壊時、最上階の建設を完了後、数十名の作業員が建物内1階で祝賀パーティーを開いていたとされ、死亡者を含む57名の被害者が瓦礫の中から発見された。何人かの生存者は、安全措置については説明を受けていなかったと発言している。
建物崩壊の犠牲者やその家族に対して全国から寄付が寄せられており、シハモニ国王とモニク妃からも2万ドルが寄せられたという。政府は、6日午後までに、2,210,800米ドルの寄付金を受領するとともに、これに政府支出を加え、見舞金を次の通り贈る旨発表。死亡者の家族は、死亡者1名につき、52,500米ドル、負傷者は、1名につき、10,000米ドル、生き埋めとなった生存者は、1名につき、20,000米ドル。
政府は1月4日、11の省庁からなる原因究明のための調査委員会を設置。建築関連規則の点検、本件の建築関連契約の点検等を含めて調査し、結果を速やかに国土整備建設省に報告することとされた。昨年12月に、建設省州事務所が建築業者に対し、工事許可証に違背する態様で工事が行われている旨の通達を出していたことが判明している。全容は解明されていないものの、ソー・ケン副首相は、4日、崩落原因は、建築資材として基準を満たしていない不良品質のものを使用したことと法定検査が行われていなかった可能性がある旨、取り敢えず発表した。
フン・セン首相は、5日、3日間の救助作業を終えるに当たり、記者会見で、本件ホテル所有者は逮捕されるべきであり、死亡者家族及び負傷者に金銭的補償をしなければならない旨述べた。また、建物各階を支えるコンクリート製材料は、通常28日間かけて固めなければならないところを12日間未満で取り出したという建設請負業者の過誤により事故が発生した旨説明した。
本件ホテル所有者のカンボジア人夫妻は、4日、刑法第207条殺人罪及び第231条過失傷害罪の廉で逮捕されたが、カンポット州裁判所予審判事は、6日、保釈金87,000米ドルの支払い及び裁判所の監視下に置くとの条件で釈放した。なお、刑については、殺人罪は、1~3年の懲役、最高1,500米ドルの罰金、過失傷害罪は、6か月~2年の懲役、最高1,000米ドルの罰金。また、建築工事監督者は、尋問のため拘留されたが、6日、尋問後帰宅を許された。
なお、昨年10月に議会を通過した建設法案(日本の建設業法と建築基準法を合わせたような建設と建築に関する包括的な内容)は、11月3日に発効している。本件事故の発生に鑑みると、この法律が実際に現場できちんと適用・実施されるに至るのには、まだ、時間がかかる可能性がある。
[日本カンボジア協会のご入会 ]
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